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張 競 氏 
(明治大学 国際日本学部 教授) 


なぜ「留学生30万人」なのか  指導改善のためTA導入すべき

――留学生30万人計画実現への課題は何でしょうか。?
 まず、なぜ「留学生30万人」なのかを問いたいと思います。単にアメリカや欧州との比較だけであるのならば疑問を感じます。そもそも、アメリカという国は非常に特殊です。世界を見渡してもアメリカほど留学生がいる国はありません。経済的な側面だけではなく、国際舞台における存在感、移民国家であること、英語の有用性などを総合した結果、世界中から留学生が集まってきているのです。
 日本においても、留学生は多ければ多いほど良いとは思いますが、現状を見ると中国、次いで韓国からの学生が大半です。
――どのような中国人学生が日本に留学しているのでしょうか。
 もちろん優秀な学生も日本に留学していますが、実は、親のメンツや中国で大学に入ることができないなどの理由で留学するケースが多いのです。また、最近の傾向として、中国の大都市では留学に関心がない若者が増加しています。先日も上海に行ってきたのですが、刺激的で活気に溢れており、海外よりも魅力的だと感じる若者が多いようです。一方で、海外に行きたいという学生もいますが、留学後の問題があります。
 例えば、中国の大学で教員を目指す場合、海外のどの大学を卒業したのか、つまり出身校が厳しくチェックされます。以前は、海外で博士号を取得すれば比較的簡単に専任教員になることが出来ましたが、現在はアメリカへ留学しても、一流大学を卒業しなければ教員になることは難しい状況です。
 日本留学に関しても同じです。中国の大学では日本語は英語に次いで人気が高く、日本語教員の求人はありますが、博士号を取得しても一定レベル以上の大学を卒業しなければ就職は厳しいです。
――韓国人学生はどうでしょうか。
 韓国では高校生の時点で、アメリカ留学を目指す学生は予備校に通い特別に英語を勉強し、日本留学を目指す場合は、予備校で日本語を勉強しているそうです。
 しかし、私が大学院に在籍していた当時、韓国人学生の9割以上は帰国していましたが、日本に留学しても卒業後は帰国する学生が多いです。こういった中国や韓国の状況を見ても、どのような学生が日本に留学するのかを深く考える必要があります。

――日本には約13万8000人(JASSO調査)の留学生がいますが、現状をどのように考えていますか。
 留学生を受け入れる以上は、責任を持って一定水準まで教育して社会に送り出さなければいけないと思いますが、現状としては受入れ後のアフターケアが不十分なのではないかと感じています。大人数の授業だと、日本語力が足りず講義についていけない留学生に対して、細かく指導できない場合が多いのです。現状のままだと、例え30万人の留学生を受け入れることが出来たとしても、「質」を問われると大きな問題を抱えていると思います。そして、質が伴わない留学生の受入れはやがて先細りしていくでしょう。
 ですから、留学生への指導を改善する方法の一つとして、TA(ティーチングアシスタント)を導入すべきだと考えています。アメリカの大学ではほとんどの授業でTAがついています。例えば博士課程の学生をTAとして導入すれば、教員の負担減、留学生への指導の向上、TAは「教える」経験を積むことができ、各自にメリットがあります。「留学生の受入れ」という入口部分が強調されることが多いですが、教育体制についての議論はあまりなされていません。責任ある留学生教育体制を構築しなければなりません。良い教育を提供し大学の評判が良くなれば、自然と留学生は増加していくはずです。

――最後に日本の魅力について教えて下さい。
 日本の製品は世界的に見ても素晴らしいということです。2年間アメリカに滞在していた経験がありますが、日本がいなければ世界は困ってしまうだろうと感じました。アメリカは発明が得意ですが、改良に改良を重ね、芸術的作品にまでモノを磨きあげることができるのは日本だけではないでしょうか。この点に関しては、大学だけではなく、日本で就職して現場で得ることができるものですが、非常に魅力的だと思います。

▼TA(ティーチング・アシスタント)
 大学院学生が学部学生に対し、助言や実験、演習の教育補助業務を行うこと。手当てが支給される。米国のTAは、単独で授業担当やシラバス作成を行うこともあり、業務範囲が広い。


Cho Kyo
 中国出身。東京大学大学院総合文化研究科比較文学比較文化博士課程修了、博士(学術)。東北芸術工科大学助教授、国学院大学助教授、明治大学法学部教授、ハーバード大学客員研究員、明治大学国際日本学部教授。『海を越える日本文学』、『本に寄り添う』、『異文化理解の落とし穴』、『「情」の文化史 中国人のメンタリティー』など著作多数。

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