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マーク ケビン 氏 
(明治大学 政治経済学部教授) 


日本のアイデンティティの確立を  可能性を秘める日本

――日本の留学生受け入れの課題は何ですか。
 日本は、日本のアイデンティティをはっきりと確立することが必要です。私は、国レベルでも大学レベルでも問題の本質は同じだと考えていますが、日本は自分の姿を見失っているように感じます。1980年代には世界屈指の経済発展を成し遂げて、魅力的な国でした。欧米でも日本語を学ぼうとする人が多かったのです。しかし現在は、日本が世界でどのような役割を担うべきかを模索しているように見えます。大学教育においても、理系科目に限れば有意義な留学先かもしれませんが、その他の分野ではなかなか個性を打ち出すことが出来ていないと思います。

――米国は世界で最も人気の留学先ですが、日本が学ぶべき点はあるでしょうか。
 米国での経験は世界中の学生にとって魅力的なものです。世界各国の学生たちとネットワークを築きながら、経験のなかで培うコミュニケーション能力など、グローバル時代に必要な教育の場が用意されています。日本の大学もグローバルな教育を行いたいという意欲はありますが、研究活動に比べると教育にかける比重はまだまだ小さいのではないでしょうか。日本自体が、教育とは何なのか、どういう教育をしていきたいのかということについて、より明確に定義づけるところから始めなければいけないと思います。

――国際大学ランキングでは、欧米の大学が上位を占めています。ランキングが留学先の決定に多く影響しますが、その点についてはどう思いますか。
 国際大学ランキングを元に進学先を決定する際、内容よりもイメージが先行している様子があることは否めません。ランキング上位の大学に入学すれば、卒業後によい仕事に就くことができると考えられています。しかし、実際のところは何の保証もありません。特に、人として本当に求められるコミュニケーションの能力や、人生におけるかけがえのない経験をその大学で得られるかどうかは別問題です。ですから、日本はもっと自信を持つべきです。長い期間停滞していますが、とてつもない可能性を秘めているのですから。

――日本の国際社会における存在感の低下は、変化を促すきっかけにもなり得ます。今後どのような方向性に進んでいけば良いでしょうか。
 「本当に何がしたいのか」を考えることです。例えば、ノルウェーに「平和学」を学ぶ大学があります。ノルウェーは独自のアイデンティティを打ち出すことで、世界中から学生が集まり、平和実現のために学び議論しています。また、勇気も必要です。大学改革を行う際にも、他大学の様子を見ながら足並みを揃えようとするのではなく、自らの意志に沿って勇気を持って改革を断行すべきです。そして、よりダイナミックに、よりクリエイティブなプログラムを構築していくべきだと思うのです。


Kevin Mark
 米国・ハワイ出身。専門は学習者コーパス開発とグローバル教育。オックスフォード大学でフランス語・フランス文学(BA、MA)を、マンチェスター大学で言語学と教育学を専攻(BLing,Dip.TEO)。1991年から明治大学で専任教員を務める。


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