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コリン マッケンジー氏 
(慶應義塾大学 経済学部教授) 


教育サービスは豪州の主要産業  日本の大学は世界へアピールを

――まず母国オーストラリアでの留学生受け入れの状況について、お聞かせください。
 オーストラリアでは日本と違って、教育サービスは外貨を稼げる主要な産業と捉え、1980年代後半には多くの留学生を受け入れました。留学生から学費を得ることで、大学の財政状況が良くなりました。ただ、CPA(米国公認会計士)を取得できる経営コースのように人気のあるコースとそうでないコースに分かれてしまい、大学内での学部間格差が生じました。また、急激に留学生が増えたので質のばらつきも生じました。そのため、例えば留学生が多い経済学部などでは英語のフォローアップサービスを施すといった工夫をしました。いずれにしても、政府が強く大学をプッシュして留学生受け入れを産業として推進したわけです。

――では、日本の大学が留学生をもっと受け入れるにはどうすればいいでしょうか。
 まず、どんな留学生を受け入れたいのかを考える必要がありますね。日本語で留学生を教育しようとすれば、市場がかなり限定されてしまいます。一方、英語で教育しようとすれば、教える側の英語レベルが問われます。ただ英語で授業をすればいいわけではなく、教育内容がどうか、世界の上位大学に伍するものかが比較されます。以前在籍していた大阪大学では、経済学の優秀な研究者が何人もいました。それを英語で提供できるかが問題でしょう。
 次に、日本の大学はもっと世界に向けてアピールすべきだと思います。世界的には米国や英国のトップ大学はよく知られていますが、日本の大学はまだよく知られていません。私がオーストラリアの大学で教鞭を執っていた時、経済学分野では東大や京大、阪大など一部の大学は著名な教授がいて知られていましたが、慶應は知られていませんでした。優れた研究をどんどん発表して、日本の大学の認知度を上げるべきです。また、留学生の口コミ情報も重要です。中国人留学生の話では、慶應に入学する前のイメージは良かったのに来てからちょっとがっかりしたそうです。日本人学生があまり勉強しないこと、教授も注意しないことなどがあったようです。これは慶應に限ったことではないでしょうから、日本人学生にも意識を高めてもらう必要がありそうです。こういったマイナス面ではなく、プラス面の口コミ情報が広がらないといけません。

――日本の大学のグローバル化推進とともに、日本人学生のレベルアップも必要ですね。
 慶應の経済学部3、4年生にPCPという英語での授業を行っていますが、80名程度のうち10名は交換留学生であとは日本人学生です。日本人学生も何とかついてきていますが、より専門的になる大学院レベルの内容を英語で受けるとすれば、やはり大学1年、あるいは高校の段階から英語力を鍛えないと難しいですね。
 一方で、英語を上達させたい留学生にとっては、日本よりも英米やカナダなどの大学に留学したほうがメリットが大きいですから、英語で質の高い授業を提供すると同時に、日本文化や日本社会の良さを全面的にアピールして留学生には日本語を学んでもらったほうがいいとも言えます。


Colin McKenzie
 オーストラリア出身。オーストラリア国立大学経済学博士課程修了。オーストラリア国立大学経済学部講師を経て、1989年7月より大阪大学経済学部助教授、94年4月より同大学国際公共政策研究科助教授、2000年10月より同教授。2003年4月より慶應義塾大学経済学部教授。専門は応用経済学。


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