Top向学新聞内外の視点>梅田 幹雄氏


梅田 幹雄氏 
(京都大学名誉教授 国際農業工学会事務局長) 


留学生に働く機会を  社会で受け入れる条件を整備すべき

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――留学生受け入れの課題は。
 経済の発展過程を見ると農業(一次産業)よりも工業(二次産業)、工業よりもサービス業を中心とする三次産業で多くの利益を得ることができます。東南アジア諸国はちょうど一次産業から二次産業への移行期で、工業が農村人口を吸収する段階に入りつつあります。水と熱の豊富なアジアは、中国やインドも加えると莫大な人口を養うことができます。昨年文部科学省が定めた戦略的留学生受け入れ地域に東南アジアが選ばれています。さらに工学・医療・法制度・農学の4つの学術分野は、国の発展に欠かせず、これらの分野で東南アジアからの留学生が増加することが期待されます。
 日本は、「留学生の受け入れ」をしっかり考えなければいけない時期にあると感じています。例えば米国は格差社会ですので、極少数ですが実力があれば格段に高い報酬や恵まれた待遇が受けられます。そうでなくても、英語で全てが済み、築いた人脈なども財産になります。これらが大きなインセンティブとなり、世界中の優秀な人材を受け入れることができます。
 日本はどうなのかと考えてみると、「大学だけで受け入れるのか、社会全体として受け入れるのか」のコンセンサスが欠けているように思います。近年留学生数を増やすため、英語だけで卒業できるバイリンガルキャンパスを増やそうとしています。日本語を学ばなくても日本で勉学・研究できる一定のメリットはありますが、日本語の読み書きが十分でない留学生は、例外もありますが、大部分の企業は敬遠します。英語だけで卒業した留学生は日本での就職は難しいです。特に関西の中小・中堅企業に留学生の採用について聞くと「日本語ができない留学生はどうも・・・」という答えが返ってきます。卒業後母国や英語圏の国に移動してしまう場合、果たしてそれで「日本は留学生を受け入れた」と言えるのかと自問しています。博士課程から来日した留学生は、博士論文の研究に時間をとられるため、日本語の学習時間を確保することは容易ではありません。修士課程から来日した留学生も似たような状況にあります。単に「留学生」と一まとめにするのではなくて、学士・修士・博士と、日本での就職の希望の有無などそれぞれの条件を踏まえて対応策を考えなければいけないということです。

――留学生の受け入れが大学だけで完結してしまう出島状態になっているということですね。
 そうです。21世紀に入って日本は全く新しい局面を迎えています。歴史を紐解くと、遣隋使・遣唐使をはじめ、明治時代に外国の知識・技術を習得するために優秀な若者が海を渡りましたが、それらは一部のエリートだけで良かったのです。現在は情報化が進み、普通の人が世界と関わることが必要な時代になりつつあり、いたるところで日本の社会制度や雇用制度の特殊性が問題となってきています。しかしまだ大部分の人は日常生活で外国人と英語で交流する段階には至っていません。企業では雇用制度の関係もありグローバル人材が不足しています。これを埋めてくれる人材として留学生が期待されていますが、日本語さえ出来れば採用されるほど甘くはありません。このギャップを企業・留学生双方が埋める努力をしなければいけません。

――留学生受け入れは学校側だけの問題ではなく、日本全体で考えなければいけませんね。
 その通りです。「留学生の受け入れ促進」とは、希望者が日本企業で働く機会を得られることであると提案したいのです。日本の強さの源泉は中小・中堅企業が独自技術を持っていることです。大学のある京都や隣の大阪には独自の技術を持つ企業が多数あります。日本は1対1で競争すると勝てなくても、組織やチームで競争すると強さを発揮し、組織としての質が高い点が特長です。留学生には日本社会で職を得て、日本の産業構造、組織の在り方といった日本の制度や、文化を学んで、日本を世界に広めていただきたいと希望しています。日本社会は留学生を大学だけでなく、社会として受け入れる条件を整備するべきだと考えています。


うめだ みきお
 1970年京都大学大学院農学研究科修士課程農業工学専攻修了後、三菱重工業株式会社に入社。1987年から京都大学で勤務し、1997年に農学研究科地域環境科学専攻教授、2009年に名誉教授・キャリアサポートルーム特任教授、2014年から国際農業工学会事務局長を務める。


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