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アルモーメン アブドーラ氏 
(東海大学 国際教育センター准教授) 


漢サウジ、世界最大規模の奨学金  「留学生目線でのケア」を

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――これまで留学生とどのように関わってこられたのでしょうか。
 エジプト出身ですが、アラブ圏との繋がりで大学教員と並行して2008年から今春までサウジアラビア大使館の専門官(アカデミックスーパーバイザー)を担当していました。サウジは2005年から人材開発や全世界の技術・ノウハウの吸収を目的とした世界最大規模の奨学金プログラム「アブドッラー国王奨学金プログラム」を開始しました。サウジ政府がスポンサーとなり、サウジ留学生の授業料から住環境など全て負担するものです。米国、カナダ、オーストラリア、フランスなどにこれまで約15万人を派遣し、2008年に日本も留学先として選ばれました。そこで私が日本留学促進を担う駐日サウジ大使館文化部発足人の一人となったのです。「日本の留学環境をいかに整えるか」、「サウジ留学生をどのように増加させるか」といった課題に取り組み、組織発足時のサウジ留学生は150~200名でしたが、現在は約600名が学んでいます。

――サウジ政府の留学生政策に関わる中で直面した日本の課題は。
 アラブ人留学生全般やサウジアラビア政府派遣留学生の政策に関わる中で見えてきた日本の課題は、「留学生視点に立っていない」ということです。文化部のスーパーバイザーとして、留学生受け入れ交渉のため日本全国の大学を行脚しましたが、そこで直面したことが入学基準です。大学に入学するためには当然入試が必要ですが、非漢字圏のサウジ留学生には日本語という高いハードルが立ちふさがります。日本語教育機関での最長2年(受験までは実質1年半)の準備期間で、求められる基準に到達するのは困難な状況です。
 米国の場合、7~8万人のサウジ学生が留学していますが、米国の大学は入試・受け入れ方法が多様です。入学時に学力が不足していても「bridge」という準備過程や語学養成課程等で受け入れ、本課程への入学をサポートするシステムが一般的です。また、SAT(米国大学入学時に必要とされる学力試験)は、母国サウジにいながら準備する方法がいくらでもありますが、日本語や日本語能力試験の場合、留学前から準備できる環境が整っていません。

――どのような解決策があるでしょうか。
 私が提案したいのが、学部留学生を増加させるための解決策です。日本留学の魅力の一つが理数系で、高校卒業段階で日本人学生の理数系学力は世界トップレベルです。しかし、日本語という語学のハンディもあり、アラブ系学生と日本人学生との間に学力のギャップがあり、入試や入学後の授業開始時は厳しい状況に置かれます。
 そこで私が本学で新しい取組みを始めました。本学には留学生のための日本語別科がありますが、そこで日本語を学習しながら理数科目を勉強できるよう、アラビア語での理数科目講座を開設しました。東京大学で数学系の博士号を取得したアラブ系の知人に非常勤講師を依頼したのですが、効果は絶大です。留学生は日本語を勉強しながら基礎学力を向上させることに成功しました。
 この方法は一例ですが、大学が個々の特性を活かしながら米国以上にケアを手厚くすることで質を保証する環境を作りあげることが可能なのです。サウジ政府は選抜した人材を海外に派遣していますが、選択基準や選択プロセスは、門を狭くするのではなく逆に門を大きく開く方針です。入学前から十分な学力を備えている学生ばかりではなく、しっかりと教育することで将来優秀な人材になる素質がある学生にも留学のチャンスを提供しています。
 日本の技術力は世界屈指ですが、それだけではアメリカや欧州に対抗できません。優秀な人材へと成長する可能性を秘めた留学生へのケアこそが、日本がより魅力的な留学先になる最大の解決策です。微力ながら様々な改革を行なった結果、数年前まで本学にアラブ系の学生はほとんど在籍していませんでしたが、現在は100名近くが在籍しています。また、日本最高峰の国立大学から本学へ転学してきたアラブ系の学生がいました。転学の理由を聞いてみると、「アラブ系学生へのサポートが充実しているから」と答えたのです。いかに「留学生目線でのケア」が重要なのかが分かります。日本に「手厚いケア」という付加価値が備われば、日本に来たいと思っても留学できなかった世界中の日本ファンが日本にやってくるでしょう。


Abdalla El-Moamen
 2001年に学習院大学文学部日本語日本文学科卒業。その後同大学院人文科学研究科で日本語日本文学博士号を取得。元サウジアラビア王国大使館文化部スーパーバイザー。


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