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ロジャー・ブラウン氏 
(埼玉大学 教養学部教授) 


近年、米国の学費が高騰  多ダブルディグリーで米国学生受入れを

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――米国で学ぶ外国人留学生数は88万人を越えて世界最大です。米国の留学先としての強みは何なのでしょうか。
 まず、戦後米国が大国として位置づけられる新たな国際秩序が形成されると同時に、経済ブームにより米国社会が豊かになりました。英語が国際言語として広まる中、米国政府は資金を援助し国内の高等教育機関を整備していきました。その結果、国際舞台で活躍するという野心ある学生は、米国の質の高い教育環境で勉強し学位を取得するようになりました。
 現在最も人気がある分野は化学や技術などで、米国の化学分野の学位を取得できれば、母国に帰国して就職できる可能性が高いですし、才能ある人材であれば米国で仕事を確保する道もあります。

――逆に米国の問題点はどこなのでしょうか。
 近年、学費が急激に高騰しています。米国の大学は基本的に州政府から資金援助を受けますが、その金額が年々カットされているのです。それに比例して学費が引き上げられ、学生の負担が重くなりました。私立大学はより深刻な状況です。
 さらに米国経済の影響で、学生が就職先を見つけることに苦労しています。高い学費のため借金までして大学院の修士学位を取得したとしても、仕事が見つからず借金を返済できないケースも多く社会問題になっています。海外からの留学生受け入れを考えると、今後状況は厳しくなっていくかもしれません。 米国の学生とその親も、「大学を早く卒業しないと厳しい」と感じており、卒業が延びるため海外留学を避ける傾向があります。

――日米両国は、お互いの留学生数を増やそうという認識で一致しています。日本側として、米国の留学生の受け入れを拡大させるために必要なことは何でしょうか。
 現在日本に留学したいと思っている学生の動機は、日本の文化や歴史への関心です。20世紀後半の日本経済の勢いは世界に大きなインパクトを与え日本に関心をもつ学生が増えましたが、現在は中国がその位置に取って替わっています。
 実際、日本に留学したとしてもビジネスレベルまで日本語を上達させるのは簡単ではなく、帰国後も日本への留学経験を活かせる仕事が少ない状況です。そこで、日本政府・大学が米国学生への日本語教育の充実や日本企業へ就職できるチャンスを増やすことなどに取り組んで頂ければ留学生が増えるのではないかと思います。
 また、米国学生が抱える学費・就職問題を考えた場合、大学卒業を延期しないで済むダブルディグリー制度の活用が有効なのではないかと思います。埼玉大学でも、米国の大学とダブルディグリー制度を実施中です。企業の方が日米両国の学位を重視して下さるようになればなお良い成果を生むでしょう。


Roger H. Brown
 米国出身。ノース・カロライナ大学グリーンズボロ校で歴史学修士取得。南カリフォルニア大学で歴史学Ph.D.取得。2002~05年にテンプル大学ジャパン非常勤講師、2005~09年に早稲田大学国際教養学部非常勤講師。2003年埼玉大学教養学部外国人教師(2009年に教授)。専門は日本近現代史、研究領域は昭和初期政治思想史。


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