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トップに聞くグローバル教育の行方

Top向学新聞トップに聞くグローバル教育の行方>近藤誠一氏(文化庁長官)×佐々木瑞枝氏(武蔵野大学教授)

近藤誠一氏(文化庁長官)×佐々木瑞枝氏(武蔵野大学教授) 


戦後日本の在り方に問題  
文化をテーマに白熱教室

 グローバル人材の必要性が叫ばれる中、日本の高等教育はどのようにグローバル化に対応していくのか。日本語教育関係の著書を多数執筆し、世界各地で講演を行う武蔵野大学の佐々木瑞枝教授が、トップにグローバル教育の行方を聞く。


(佐々木) 日本の学生は、国際会議などに出席しても発言が少ないと度々指摘されています。先日、韓国の釜山外国語大学に行く機会があったのですが、学生から積極的に質問がありました。1時間の予定だった授業が4時間以上におよび、韓国の学生達のパワーに驚きました。なぜ、日本には世界の舞台で意見を堂々と主張できる人材が少ないのでしょうか。

(近藤) それは戦後の日本の在り方に問題があります。戦後焼け野原になった日本は、欧米に追いつこうとしました。以来あらゆるリソースを使って、最大の課題であった経済成長を押し進めてきたのです。その結果、産業政策も教育も非常に上手くいきました。
 しかし、当時の教育は先生に教えられたことをいかに暗記するかが重要でした。そして、日本は画一的な、しかし優秀な労働者を大量に輩出することで奇跡の発展を成し遂げたのです。ですが、世界の第一等国になってからは、教育方針をシフトしなければいけませんでした。自ら考えて議論し、相手の意見を聞きながら自分の考えを発展させる。そして最終的に、お互いが納得できる終着点を見出す力を養う教育が必要でした。しかし、誰も有効な策を取り得なかったのが実情です。現在の教育の在り方に対して、文部科学省や教育委員会などに様々な批判があります。しかし、複合的に問題が絡み合う今日の日本社会では、誰か一人、どこか一つの組織が悪いと言っても何も解決しません。皆で取り組まなければいけない問題なのです。

(佐々木) その通りですね。点数主義の弊害から様々な問題に直面し、今まさに日本全体が変わらなければいけないと思い始めています。日本はスポーツや芸術など、様々な分野で世界最高峰の内容を備えていますが、政治や教育の面では改善すべき問題が山積みです。具体的にはどのように改革していくべきでしょうか。

(近藤) 実際のところ、やる気のある人が積極的に動いていくしかありません。そこで私も、大学を回ってハーバード大学のマイケル・サンデル教授のような白熱教室を行っています。マイケル・サンデル教授は「正義」をテーマにしていますが、私の場合は「文化」について学生と2~3時間議論しています。
 授業を始める前は、「今の学生は議論をしたくても黙っていることが多いだろう」と思っていました。しかし、授業を開始して数分で学生から反応があり、深く物事を考えていると分かって非常に勇気づけられました。それと同時に、「近頃の若者は意見がない」といって話す場を設けようとしない大人の側に責任があるのではないかと感じたのです。

(佐々木)そうですね。日本が変わるべき点はそこで、様々な立場の人が発言できる機会を増やすべきだと思います。一方で、現在日本には多くの外国人留学生が滞在しています。しかし、都心に外国人留学生が集中してしまい、日本の本当の良さを感じる機会が少ないのではないでしょうか。

(近藤) 私は、都会だけではなく地方に行って日本の社会、文化、歴史を出来る限り体験して欲しいと考えています。地方に行く機会があると必ず、JETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)のALT(外国語指導助手)やCIR(国際交流員)に会うようにしています。20~30代の外国人の若者が日本全国に散らばっているのですが、彼らは非常に問題意識を持っています。どこに行っても彼らから、「日本にはこんなに素晴らしい文化があるのに、なぜ社会での文化の地位が低いのか。日本人は地元の文化の価値を分かっていない」といった話を聞きます。

(佐々木)同感です。私は以前山口大学で教えていましたが、そこで学ぶ外国人留学生は幸せだったと思います。山口には西の京といわれ繁栄した大内文化がありました。また、歴代の総理大臣を始め多くの政治家を輩出しています。元々、山口には江戸時代に優れた藩校や私塾があり、人材を輩出する土壌がありました。地方にはこういった素晴らしい魅力がありますが、地方からの発信が少ないことは残念ですね。地方の良さをもっと外国人留学生にアピールすることが重要だと思います。

(近藤)そうですね。昨年の東日本大震災でも、自然を慈しみ、周りのことを考え、私欲を抑える東北の人々の姿から、日本の素晴らしさを見出すことができました。その生き方は学校で教えられたものではなく、我々が祖先から引き継いできた美徳であり、常識でもあります。特別なことだと気がついていませんでしたが、その姿が世界から称賛されました。言葉で説明することは難しいですが、そういった日本人の心を感じてほしいと思います。

(佐々木)その通りですね。貴重なお時間をどうもありがとうございました。

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こんどう せいいち 1972年外務省入省。広報文化交流部長を経て、2006年~2008年ユネスコ日本政府代表部特命全権大使。2008年9月から駐デンマーク特命全権大使。2010年7月30日より現職。


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