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超鉄鋼 


リサイクルし易い高性能鉄  日本を資源国に変える

 今月は、「超鉄鋼」の開発を進める物質・材料開発機構超鉄鋼研究センターの、長井寿センター長にお話をうかがった。


鉄を4倍効率的に使用
――「超鉄鋼」の特徴は。
長井  簡単に言えば強度2倍、寿命2倍の鉄ということになります。鉄はすでに定着している一般的な材料ですから、その性能を2倍に上げることができれば、経済や社会に与える効果は大きなものがあります。超鉄鋼の開発の背景には環境問題があります。従来の鉄に対して強度2倍×寿命2倍=4倍の効率的使用を可能にすることで、省資源・省エネルギー化に貢献するという意図があります。最も多く使用されている材料で省資源化を実現しない限り工業文明社会を持続していくことはできないという問題意識から開発が始まりました。このプロジェクトは最初に日本が始め、そのあと韓国、中国も続いて国家プロジェクトを立ち上げています。
  現在、超鉄鋼は全く新しい鉄として各方面から注目を集めています。20世紀には、新しい性能の金属を作るには、様々な種類の金属を混ぜ合わせる合金という手法が主流でした。ところが資源やエネルギーの問題から、混ぜ物を最小限に抑えて新しい性質の鉄を作っていこうという方向性が徐々に出てきました。混ぜ物をすると、もう一回純粋な鉄にリサイクルしようとする時に混ぜ物を取り出すための余計なエネルギーがかかるからです。そのため超鉄鋼では合金によらず、材質の構造自体を変えて性能を高めています。金属は多くの結晶からできていますが、結晶の粒が小さくなればなるほど強くなります。理論上、これを通常の10ミクロンから1ミクロンまで小さくできれば強度を2倍にできるため、その実現に取り組み、先般、スクラップ鉄を原料に用いた大型の超鉄鋼厚板の製造に世界で初めて成功しました。


資源の質を高める
――超鉄鋼は鉄リサイクルのあり方をもを変えていくのでしょうか。
長井  そうですね。人類が生きていく限り使い続けられるリサイクル性の高さというという点でも、超鉄鋼は全く新しい発想に基づく新しい鉄であるといえます。現在国内では年間3500万トンもの膨大なスクラップが発生していますが、これを資源として使わないとあまりにももったいないのです。日本国内の鉄の年間使用量は約7000万トンで、これは30年間変わっていません。今後もずっとそのペースで使っていくとすれば、そのうち建物の更新時期が来ますので年間7000万トンのスクラップが発生する時代がやってきます。また、日本の人口は今のまま推移すると、21世紀後半には半分になるといわれていますし、さらに超鉄鋼の性能が上がれば効率的に鉄を使用できるようになるわけですから、鉄の内需が減っていく方向にあることは確実です。ところがスクラップのほうはどんどん増えていくわけですから、次の世紀を待たずともスクラップの発生量が内需を上回るようになる可能性があります。われわれの目標は、将来そのスクラップで国内の鉄の需要を皆まかなえるようにすることです。そうすれば鉄鉱石を一切輸入しなくてもよくなります。日本は地下資源がない国だといわれてきましたが、それが実現できれば資源国に一変するのです。さらに、単なる資源の確保にとどまらず、もう一度使う時には以前よりも良い性能のものに変えることができるようにして、資源の質を高めていく。これこそがわれわれの本来掲げるべき目標だと思っています。そうすれば鉄を作って海外に売ることもできます。日本が鉄の輸出国になるのです。スクラップから高性能な鉄を作る技術を確立するということは、世界に対して非常に大きな貢献をすることになるのではないかと思います。
  そういう意味で、私は超鉄鋼の開発は世界の人々とともに行っていくべき仕事だと思っています。当センターの人員約100人のうち14人が中国、韓国、ロシアなどからの外国人研究者です。何も日本のためにだけ超鉄鋼は使われる必要はないわけで、特にこれから発展していく国には、最初から日本の高い技術を導入していっていただくほうが人類全体の利益から考えると良いのです。省資源・省エネルギーというグローバルな問題を解決するためには、なおさらそういう方向性が必要です。


様々な実用化のアイディア
――今後実用化が考えられる分野は。
長井  超鉄鋼の開発にまず喜んでいるのが自動車関連分野の方々です。自動車部品は使われる箇所によって鉄の成分や強さが違うのですが、超鉄鋼なら同じ成分で結晶粒径だけ変えることにより様々に強度の違う部品ができ、使用後は溶かせばまた元の均質な鉄に戻るので安心してリサイクルできるというのです。
  また、民間から商品化のアイディアを募ったところ、小さいものにこそ生かせるということで1ミリ径のねじに使いたいという企業が現れました。超鉄鋼を使えば熱処理や合金などの工程が不要になるので製造コストが大幅に下がり、なおかつ環境にやさしく性能も良いものができるというのです。これはもう今年あたりから商品が市場に出てくると思います。
  このように様々な方面の人からアイディアを得て研究目標を新たに定め、さらに新しい理想が増し加わって超鉄鋼は成長していくのです。