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丁 寧さん(中国出身) 
(国際交流基金 日本研究・知的交流部 主任) 


地域の課題を留学生と解決  日本社会の内向き傾向打破を

――留学生時代の体験からお聞かせ願います。
 東大留学中に9・11事件が起こり、衝撃を受けました。それがきっかけとなり、紛争地域から学生を呼んできて生の声を日本に届ける学生会議を主催するようになりました。国際交流を通して紛争の種を一つ一つなくしていこうという試みです。会議に携わる中で、様々な人と一つのステージを作っていく共同作業を体験でき、大変よい社会勉強になりました。基金から助成を頂いたり、海外と連絡して人を呼びシンポジウムを開いたり、講師との交渉を行ったりしましたが、この経験は今の仕事にそのまま生かされています。国際交流基金では、オピニオンリーダーや海外の日本研究者などが交流し、国家を越えてグローバルな課題の解決を目指す国際会議を主催したり、企画を助成する事業を担当しています。

 留学生の皆さんは、社会人になってから社会とかかわり始めるのではなく、ぜひ学生のうちから実社会を念頭に置きながら社会の一員として行動してほしいと思います。世の中を変えるには、同じ問題意識を持つ仲間を見つけ、解決の方法を一緒に考え行動することが大切ですが、これは何をするにも同じではないでしょうか。実際の行動に至るためには、そのきっかけを作ってくれる人が周りにいること、留学生自身が積極的になることの両面が不可欠です。その意味では留学生に働きかける動きがもっとあっていいように思います。

 私は今、地域に留学生や外国人の視点を持ちこみ、地域の課題を住民と共に解決する取り組みを始めています。地域社会や市民社会に本当の日本社会の姿があります。そこに留学生や外国人が入ることで真の日本理解につながるし、日本社会にとっても彼らを支援の対象としてだけではなく、共に地域のことを考えてくれる存在として認めることで双方にメリットが生まれます。しかし現状としては普段の接点がないのです。そこで私は、大学の留学生センターや留学生会、地域のボランティアセンターやNPO、福祉施設や町内会などをリンクして地域のニーズを洗い出し、ボランティアで何かしたい留学生を見つけてマッチングするようなことができないか試行錯誤しているところです。地域に共にかかわることで信頼関係が生まれます。文化外交の現場は身近なところにあるのです。

 今気になっているのは、日本社会がどんどん内向きになってきていることです。社会が開かれて行くよう、特に若者は世界のことに関心を持つよう努力していかなければなりません。今こそ具体的な文化交流を行っていくことが重要なのです。

 私は日本人の「思いやり」など美徳や長所を十分に認めながらも、日本の組織はもっと変化して流動性のある労働市場になっても良いのではないかと感じています。人間は安定感さえ得られれば幸せになれるわけではなく、「何をしたいか」で仕事が変わっても良いと思うのです。しかし日本では、例えばいったん海外に出た人は戻ってもなかなか活躍する場所がありません。社会の流動性が高まればこの問題も徐々に解決していくかもしれません。この点は日本の内向き傾向を打破する一つのヒントとして提案したいと思います。


丁 寧
1998年高校卒業後に来日、東京大学工学部を経て、国際協力コース修士。在学中に世界学生会議を立ち上げ代表を務めながら、約1年半東京とニューヨークの国連機関でインターンを経験。2005年より国際交流基金。



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