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鄭 琳さん(中国出身) 
(三菱商事株式会社) 


様々な利害関係をコーディネイト  排出権ビジネスにはバランス感覚必要


――会社では排出権取引に携わっているのですね。
 就職活動に際して、私は学生時代の専門分野である「排出権」の知識を活かそうと三菱商事を志望しました。幸いにも内定をいただき、希望通り排出権取引の仕事を担当しています。
 排出権ビジネスは京都議定書に基づいたもので、その代表例の一つとしては、先進国が途上国の古い工場等で温暖化ガス削減技術および所要資金を提供することにより排出削減を実現し、当該削減分が国連に「排出権」(クレジット)として認証・発行された後、そのクレジットを売買するものです。
 途上国にとっては先進国から技術と資金を得ることができ、環境性能の良い設備の導入につながりますし、先進国にとっては、自前で高いコストを払ってCO2を減らさなければならない状況の中で、途上国のプラントの効率を改善することによって、比較的低いコストでCO2削減目標を達成できるメリットがあります。そのつなぎ手として弊社が中間に立ち、途上国と先進国、そして弊社も利益を上げられる、Win―Win―Winの関係を実現したのです。
 私の役割は様々な利害関係者をコーディネイトする立場です。この業界には国連や各国政府、議員、機器メーカー、コンサルティング会社など様々なプレーヤーが入っています。例えば途上国のプラント保守要員や国連が指定した欧州の審査機関などが集まって同じ仕事をする際、いかに彼らの考えを一つにして案件を推進していくかというバランス感覚が求められます。言い換えれば、各人の様々な思惑を踏まえながらもそれぞれに満足できる結果を導き出すのが私の役割です。

――留学中の経験で今の仕事に役立っていることは。
 私は日本留学中に、日中韓三カ国の学生達が毎年一箇所に集まり議論するフォーラムを企画しました。この活動はLEAF(東アジア学生フォーラム)という学生団体の形で今でも後輩たちが続けています。日中韓はそれぞれ近くて遠い国と言われますが、若者は大人と違い何でも話せる立場にあります。将来国の主役となっていく中韓の学生を東京に呼び、共に環境省や経産省、有名な日本企業を訪問し話を聞いたり、議論したりしました。彼らは母国でイメージしていた日本とは全く異なる印象を受けたようです。
 特に私は環境分科会に注力しました。中国は現在、30~40年前の日本と同様の公害問題に苦しんでおり、地球温暖化など実感しにくいものより黄砂やNOx/SOxなどの問題の注目度が高いです。そこで、将来の中国を担う学生に環境先進国日本の取り組みを紹介することで、環境の大切さを理解してほしかったのです。そういう問題意識を持った人たちがリーダーになれば実際に世の中を良い方向に動かせると期待しております。

――そういう経験が今生かされているのですね。
 排出権取引では、途上国の人々が我々を信じて一緒にやってくれるかどうかが問題です。多くの方は、京都議定書も知らないし英語も分かりません。排出権の認知度が低かった昔は現地の方に一つ一つ説明することが必要で、地道な教育を積み重ねてきました。
 現在ウズベキスタンの案件を担当しておりますが、中央アジアの第一号排出権案件であり、同国政府に大いに注目されています。このように、国レベルの案件に取り組み、責任感を持って日々頑張っております。


※本文の記述は個人的意見であり、三菱商事株式会社の見解とは関係がありません。



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