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留学生サポート講座

留学生サポート講座

内定ブリッジ淺海一郎氏

淺海 一郎
内定ブリッジ株式会社代表取締役、ビジネス日本語教師、厚労省「雇用管理に役立つ多言語用語集及び翻訳データの作成・普及事業」有識者研究会委員、JETRO高度外国人材スペシャリスト

第2回 
相手の考えがわかると、
ビジネス日本語も上手になる

今回は、会社の日本人が、外国人社員とのコミュニケーションで、どういう時にどういうことで困っているのか紹介したいと思います。

ビジネス日本語って、なんですか?
 みなさんは、ビジネス日本語という言葉を聞いて、どんな言葉を考えますか?敬語や仕事で使う専門の言葉だと思った人もいるでしょう。仕事でのメールや電話で使う日本語だと考えた人もいると思います。どちらも正しいです。ビジネス日本語とは、何か一つだけのことではなく、たくさんの意味がある言葉です。

気持ちの日本語(モダリティ)
 「来月、A社と取引を始めようと思っているので、明日からその準備をします」の「始めよう」という動詞は、意向形(Volitional form)の動詞です。初級文法で学ぶ、話す人の気持ちを言うときの言葉です。また、似ているので勉強が大変だったと思いますが「そうだ、ようだ、らしい」という、中級レベルの日本語も、ビジネスで話す人が何かを考えて決めるときに使います。他にも日本語には、話す人の気持ちを伝えるときに便利な言葉が、たくさんあります。こういう言葉を「モダリティ」と言います。
 モダリティ(気持ちの表現)は、自分で何かを考えて決めたり、誰かに依頼したり、誰かと交渉したり、相手を説得したり、プレゼンテーションをしたりするときによく使います。

日本人上司が困る時
 日本人上司が困る時は、どんな時でしょう。大阪の会社で仕事をしている日本人上司のAさんは、外国人部下のBさんの日本語の報告メールで困っています。Bさんの日本語はN2レベルで特に問題はありません。しかし、Bさんからの報告メールには、Aさんが知りたいことが書かれていないことが多いのです。
 Aさんは先月、新しい商品の市場価値について分析するオンラインイベントに、Bさんを参加させて、Bさんからイベントの報告をメールでもらいました。新しい商品の説明は、メールにちゃんと書いてあったので、よく分かりました。しかし、一番知りたかったことはその商品の市場価値です。また、他の会社がこの商品にどのくらい期待しているかです。つまり、この商品が将来、売れるのかどうかを、Aさんは知りたかったのです。なぜならAさんと会社は、この商品を売るかどうかを決めなければならないからです。
 ぼくは許可をもらって、その報告メールを読みました。よく説明してありましたが、イベントに参加した会社の数が書いていなかったので、どうして書かなかったのか聞きました。Bさんは質問に対して、少し考えてから「報告する必要がないからです」と答えました。

どうして上司は部下の報告で困りますか?
 ビジネスで報告する場面では、客観的な情報を伝えるのが大きな目的ですから、気持ちの日本語はあまり使いません。しかし、今のAさんとBさんの話から分かるのは、上司のAさんが大切だと思っていることと、部下のBさんが大切だと思っていることが、全然違うということでした。実はこういうことは、会社に入った後のコミュニケーションで、とても多く起きていることです。
 イベントに参加した会社の数というのは、Bさんにとっては、特に大切なことではありません。しかし、上司のAさんにとっては違います。市場価値を判断するために、大切な情報です。Aさんは競合他社(ライバルの会社)に負けないためにも、こういうことはすぐに知りたいと考えています。
 報告では、たくさんの情報の中から、忙しい上司がすぐ分かるように、相手にとって大切だと思われる情報を分かりやすく強く伝えることが必要になります。ですから参加した会社の数の説明のしかたも、気持ちが違うだけで、全然違う日本語になります。

<報告の例>
・参加企業数:54社
・参加企業数:54社(昨年比70%増)


 上の二つの報告例を比べると、それを読む人(上司)にとって、分かりやすさが違うことが分かります。小さな違いなのですが、相手が何を必要としているかを理解しているかどうかで、報告する内容と伝わり方も、全く違うのです。

会社や上司の考え方を知ろう

イラスト

 留学生のみなさんは、ビジネス日本語というと、「自分が話す日本語」だけを考えることが多いかもしれません(図①)。もちろん、それを勉強するのは必要です。でもコミュニケーションは双方向ですから、会社や相手の気持ち、考え方や話していることの意図(何を求めているのか)をもっとよく知ることも大切です(図②)。
 ぜひこういうことも考えながら、留学生生活や就職活動を楽しんでください。

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