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留学生の就職支援
第5回 対談④ キャリア相談とは

栗原由加氏

栗原由加 氏
神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部 教授

新居田久美子  氏,70%

新居田久美子 氏
神戸学院大学人文学部 講師 公認心理師
大阪大学キャリアセンター キャリアアドバイザー
神戸大学キャリアセンター キャリアアドバイザー


自立は面白い、 一歩前進する・動いてみる

応募しない、応募できない背景

栗原)日本の大学生にとって、就職活動は、自分のキャリアについて真剣に考えて活動する、大きなプロジェクトです。また、開始時期が大学3年次と早く、期間が長いことも特徴で、十分な準備をして主体的に進める必要があります。ところが、留学生の就職指導を行う中で気づいたのですが、多くの留学生が同じようなことで困っていて、なかなか解決しない問題があるようです。今日は、その中で特徴的な三つの問題について、キャリアアドバイザーとして多くの学生を指導してきた新居田先生にお話を伺いたいと思います。

 まず一つ目は、留学生が「応募しない、応募できない」という問題です。これは、就職活動のスケジュールを知らないということではありません。たとえ知っていても、なかなか会社に応募しなかったり、応募しても数社だったり、という問題です。二つ目は、留学生が大学のキャリアセンターを利用しないという問題です。三つ目は、キャリアセンターに行っていても、困っている状況がいつまでも解決しないという問題です。

 このような問題は、留学生に限ったことではないのかもしれません。まず、一つ目の問題について、新居田先生は、どのようにお考えでしょうか。

新居田) 日本人学生も含めての話になりますが、自立する事や自分の力でキャリアを開拓していこうという意欲が低い学生が多いと感じます。就職活動は、自分が否定される、選考で落とされて悲しい思いをする、というマイナスイメージが先行して、「できれば就活をしたくない」と、ネガティブに捉える傾向があります。そのように感じている学生に就活ノウハウを教えたからと言って、動き出せるかと言えばそう簡単にはいきません。

 就職活動は、選考に「落ちる」ことからはじまり、むしろそれが、就活の重要なスタートになります。インターンシップもそうですが、自分がどのような分野に興味があるのか、自分のやりたいことや問題意識と接点がその業界や会社にあるのかを、落ちたり合格したりをくりかえしながら探せる機会なのです。ですから、まだ行きたい業界が決まっていなくて、いいのです。

 一生懸命ES(エントリーシート)を作って応募したのに選考で落とされてしまうとがっかりしますが、収穫はゼロではありません。ESを作成する中で、気づいたことや得たことによりブラッシュアップできるはずです。PDCAサイクルを回して、一つ一つ積み重ねて学ぶ経験自体が将来に生かせます。

 学生たちには、就職活動は360度展開で自分の可能性を探し出すことができるビッグチャンスなんだよと、「想像以上の楽しさ」「自立の面白さ」に出会える活動だと伝えています。

キャリアセンターの利用

栗原)社会人になることを、自分の人生の中で前向きに位置づけることが大切だと思います。就職活動は、自分と向き合って、自分の人生や将来のことについて考えることから始まりますが、自分のことを自分一人で考えていても、よく分からないものだと思います。二つ目の問題と関わりますが、キャリアセンターを利用しない学生に話を聞くと「相談することがない、何を相談すればいいか分からない」とよく言います。分からないから行くという姿勢も大事ですね。

新居田)そうですね。たとえ小さなことでも、まだ漠然としていても、キャリアセンターは怖いところではないので(笑)、はっきりしていない、分からないことをそのまま話しにきてください。
 
 また、内定を取ることだけを目的・ゴールに考えないでほしいです。これからの人生100年時代を自分はどう生きたいか、では今何をすべきなのか、それを乗り越える最初のステップが就職活動です。「ここにチャンスがあるかもしれない」と思って、自分から探索行動を開始することが重要です。

栗原)キャリア相談について、少し詳しく教えていただけますか。

新居田)キャリアカウンセラーの相談には、「就職活動はどうしたら良いか」「行きたいところがない、分からない」という相談が多いです。カウンセラーとしては、「では、あなたにとって行きたい会社、いい会社とはなんだろう?」「良い会社の定義は?」と、学生と話しながら、自己分析に繋がる質問や投げかけをします。話をする中で「これをしたい・したくない」に本人が気づきます。レクチャーをしてノウハウを教える事とは違います。頭の中でまだぼんやりしていることを、言葉に出してそれらを客観視する、潜在的な要求を掘り起こすお手伝いをすることがキャリアカウンセラーの役割だと思います。
 
 アドバイスを聞いて、「はい分かりました」と学生はすぐに言いますが、「わかったつもり」のままにせず、「今日私と話してみて何か変わった?今からやれることみつかった?」と、学生本人に振り返らせてからクロージングするようにしています。

企業の視点

栗原)学生が、自分の考えを深めたり、自分で行動を起こしたりできるようになることに、キャリアカウンセリングの意義がありますね。三つ目の問題と関わりますが、「自分が困っていることを誰かに解決してほしい」と思って相談していても、自分の問題は、なかなか解決しません。たとえば、ESを書く時に、「どのように書けば選考に通りますか」と、正解を教えてほしがったり、日本語を完璧に添削してほしいとお願いしたりするケースがあります。

新居田)「キャリアセンターに行けば正解を教えてもらえる、受かる可能性の高い企業を教えてもらえる」とマッチングを期待する学生がいますが、その背後には、「自分が受かる見込みがあるところだけ受けたい」などと効率を重視する狙いがあるのでしょう。しかし、それはとても危険です。一つしかない正解を回答する入学試験とは違うからです。

 私はESの日本語はほとんど直しません。多くの企業は、細かな言葉の正確さよりも、内容を見ています。たとえESを完璧な日本語に直したとしても、面接をすれば語学レベルは分かってしまいます。学生の多くは「失敗は恥ずかしい」「正解を答えたい」と考えるケースが多いですが、企業の視点は違います。なぜ失敗や苦労の経験を質問するのかというと、失敗や困難に「どのように立ち向かい、そこから何を学んだか」を知りたいのです。若い学生たちがこれまでしてきた経験は限られており、似た経験談がほとんどです。そこで何をつかんだのか、どんな成長をしてきた人かを理解することで差別化ができ、評価ができるのです。
 
 ほとんどの企業は、日本語が多少つたなくても、アイデアが斬新であったり、論理的思考に優れていれば評価し、語学力は後から付ければよい、と考えていると思います。

 ある企業の研究所で、社内公用語を英語にしたので日本語が全く話せない留学生でも大丈夫だろうと採用したところ、業務は英語でこなせても、その他の社員とコミュニケーションが取れないため、人間関係が広がらず孤立してしまい結果的に会社を辞めてしまったということがありました。

 優秀な留学生は、ESをある程度はうまく作成できますが、コミュニケーション力などはグループディスカッションで見破られてしまいます。人の話をちゃんと聞けるか、異なる意見を尊重したうえで、議論を前に進めることができるか、などが会話に表れるからです。また、公平で素直な姿勢のほうが、コンプライアンスの観点からも重要です。面接は、準備は必要ですが過剰な武装をするよりも素直に自分をさらけだすことが必要なのです。

栗原) 企業は学生に対して、模範解答のようなものを求めてはいませんね。社会で大切なのは、様々なタイプ・年齢の人とチームになって、求められる仕事ができるかどうかですから。

新居田)その通りだと思います。留学生へのアドバイスとしては、日本人だけでなく、ダイバーシティに多様な価値観の人々と積極的にコミュニケーションをとることをお勧めします。バイトやゼミでも交流を深めて信頼関係を作っていくことが貴重な経験値になります。学生生活で困っていないから、と、母国のスタイルだけで過ごす留学生がたまにいますが、偏ったコミュニティにだけとどまっていると、結果はおのずと変わってくるでしょう。留学生会でリーダーをしているが、母国以外の人たちとの関わりは少ないとなると、企業の興味は下がると思います。日本文化や価値観、商習慣をある程度体験した上で、当社の事業に共感し、当社で働く意義を感じているか、意欲があるか、を見ているのです。

 学生は、国籍に関係なく、これからの持続可能社会を作っていく貴重な人材です。学生時代は、自分と他人を比べて、自分を低く見積もる傾向に陥りやすいのですが、自分の可能性は無限大だと知ってほしいです。あの時やっておけばよかった、と後悔しないように、今何ができるか考え、一歩前進する・動いてみることが大事です。



・留学生の就職支援
 第1回「現場から見える課題」
 第2回 企業の視点、大学の視点 対談①
 第3回 「仕事ができる人」とは? 対談② 
 第4回 対談③在留資格の注意点
 第5回 対談④キャリア相談とは

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