TOP>向学新聞>留学生の就職支援 第12回
向学新聞2024年7月号目次>留学生の就職支援 第12回 対談⑪外国人の定住
<向学新聞2024年7月号記事より>
留学生の就職支援
留学生の就職支援 第12回
対談⑪ 外国人の定住
栗原由加 氏
神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部 教授
キャリア教育センター副所長
上森秀夫 氏
INFINITY株式会社 代表取締役
日系3世、ブラジル生まれ。9歳で来日。日本とブラジルを行き来しながら、日本とブラジルの橋渡しとして社会に貢献したいと考えるようになり、2007年人材派遣会社のINFINITY SERVICE株式会社を設立。滋賀県の日系ブラジル人コミュニティでの活動や、他のコミュニティとの協力、地域社会へも積極的に参加している。
改正入管法等により、日本で生活する外国人の更なる増加が予想される。外国人コミュニティや、地域社会との関わりはどのようなかたちを目指すのか。歴史の長い日系ブラジル人について、コミュニティでの活動や、地域社会や行政とのつながりも積極的に築いてきた上森秀夫氏にお話を伺った。(以下、敬称略)
日系ブラジル人コミュニティ
(栗原)上森さんが行っている日系ブラジル人コミュニティの活動の様子を教えて下さい。
(上森)現在滋賀県には日系ブラジル人が約9300人住んでいます。多くの方が工場等の社員として働いています。子供もたくさんいますので、現在県内にはブラジル人学校が3校あります。ラチーノ学院は、幼児から高校生までの約200名、サンタナ学院は80名の子供たちが通っています。私が運営している人材派遣会社の中にも保育所を作り、現在約60名の子どもを預かっています。
家族で生活をしていれば、日々色々な問題に直面します。当社スタッフの家族や親族から困ったことの相談があれば、問題を解決できるように協力してサポートをしています。
(栗原)誰でも生きていれば、必ず困ることが出てきます。その時に、母国語で相談できる同じ国出身の人が近くにいることはやはり心強いですね。
(上森)そうですね。国が違えば文化や習慣も違いますし、ニュアンスが伝わるという面でも、同じ言葉だと安心します。気持ちの問題が大きいです。
(栗原)確かに、気持ちはとても大切だと思います。
(上森)私が普段から考えていることは、生活する上では「楽しみ」や「安らぎの場所」が、とても大切だということです。10年前は、私の周りの日系ブラジル人から「日本は仕事だけで楽しみがない」という声をよく聞きました。そこで、スタッフと協力して、滋賀の良さをビデオにしたり、一緒に日帰りツアーで観光する機会を作りました。滋賀県は長寿だし、お寺があったり琵琶湖や真珠(パール)など魅力があることを皆で体験して、その情報の発信もしました。人生一度きりですから、楽しみがあった方が良いです。
また、安らぎの場所を作れるように、「ビラインフィニティ」という名前でブラジル料理のレストランなど皆が集まって一緒に食事をできる場所も作りました。
ピークでは日本に30万人いた日系ブラジル人ですが、リーマンショック後帰国者が増えて、一時は約半数の15万人ほどになりました。その後また多くの方が戻ってきて、現在は約20万人です。帰国するか日本に残るかという選択肢がある外国人にとって、仕事はもちろんですが、「生活する上で困ったことを解決できる情報が得られる」ことが大事ですから、私たちは情報発信の活動にも力を入れています。そして、「楽しみ」や「安らぎの場所」があり、日本が好きであることが、日本に残ろうと思う大きなポイントだと思います。
地域社会・行政とのつながり
(栗原)地域社会との関わりでは、どのような取り組みをしていますか。
(上森)地域社会との関わりでは、自治会に積極的に参加して、役員を日系の方がやっている所もあります。役員をする方が増えると、地域の事がより分かってきますし、自治会運営の大変さも理解でき、地域の方からの信頼を得やすくなります。自治会の役員は月に何度も集まりますので、簡単なことではありません。でも、自治会の町代表になった日系ブラジル人の方は、「子供の同級生の親から挨拶をしてもらえた、信頼されてコミュニケーションが取りやすくなった」と言っていました。
(栗原)ほかにも、地域と一緒に活動するためのアイデアはありますか。
(上森)地域には様々な団体があるので、そこに参加することで学べたり、地域の方々に私たちを知ってもらうチャンスにもなります。私はロータリークラブに入っていますが、大先輩たちが長く活動されていることを知り、その姿をみて、尊敬できる方々だと感じ学ぶことが多くあります。
最近の出来事としては、交通安全の協会の事務局を、当社の日系4世の方が担当することになりました。推薦していただいた会長や地元の方々には感謝しています。大変さもありますが、学ぶことが多いです。信頼してもらい、関係を築くには時間がかかりますが、滋賀の人は優しい人が多く、受け入れようとする気持ちがあるので、地域の一員として積極的に行動することが大事だと感じております。
また、行政も、外国人に正しく役に立つ情報を届けたいと考えてくれているので、連携しながら、行政からの情報を私たちがポルトガル語に翻訳して発信しています。また、滋賀県では「みみたろう」という外国人向けの情報紙が複数言語で発行されています。
コミュニティのリーダーについて
(栗原)外国人がコミュニティを通して日本の地域社会になじむには、コミュニティの核になり、地域とつないでくれる人が必要だと思いますか。
(上森)必要だと思います。外国人は、地域と関わりたいと思っても、入り方が分からないことが多いです。皆の意見を色々な角度から聞いてコミュニティを引っ張るリーダーが必要です。リーダーは、コミュニティのことを考える、思いやりのある人が良いです。また、現実問題として活動にはコストがかかるので、公私ともに少しゆとりがある人が良いと感じます。
(栗原)リーダーを育てるようなしくみはできるでしょうか。
(上森)外国人のリーダーを育てるには、外国人が「会」のメンバーになることが一つの方法です。先ほど挙げたロータリークラブや、より身近には自治会やPTAもあります。まずは参加すること、そして最低でも3年は続けることが必要です。続けていれば、こちらの本気も伝わり、信頼を得ることができます。
その時に、ここは日本ですから、外国人もまずは日本の文化や習慣を理解する努力をし、大切にする姿勢が必要です。その姿勢があるとより受け入れてもらいやすいと思います。日本の文化を尊重した上で、海外文化の良さを伝えて両立できたら理想的だと感じます。
私はこれまで、思いやりのある方々との良い出会いに恵まれて、会社経営でもたくさんの方に支えていただきました。その分、恩返しとして地域と日系人コミュニティとの橋渡しができるような活動をこれからもしていきたいです。
日系4世渋谷さゆりさんへのインタビュー 「日本は安全で頑張れば旅行にも行ける」
(栗原)渋谷さんはいつから日本に住んでいるのですか。
(渋谷)私はブラジルで生まれて、7歳に来日しました。これからも日本にいる予定です。
(栗原)日本での生活はどのような良いところがありますか。
(渋谷)やはり安全面が大きいです。ブラジルも楽しい思い出があります。ただ、旅行などはお金の面で手を出しにくいです。一方、日本は頑張れば、旅行も行くことができます。あとは、規範教育が素晴らしいと思います。小さいころから整理整頓を学校で教わりますし、職場でも、4S,5Sを大切にしているところが素晴らしいです。
(栗原)地域社会に溶け込むためにはどのような工夫をしていますか。
(渋谷)ため口になりやすいのですが、ちゃんと敬語を使って話をすると、日本の方も敬意を払ってくれることが多いです。礼儀正しい方が印象も良いので、周りにもそのようにアドバイスをしています。
(上森)渋谷さんのお父さんは自治会のソフトボールに参加していますね。お兄さんも積極的に参加しています。
今回、地域の交通安全協会の事務局を渋谷さんが担当することになりました。歴史のある団体ですが、初めて日系人が事務局を担当することになりました。推薦していただいた当会の会長や地元の方には感謝しています。
(栗原)イベント活動にも力を入れていらっしゃいますよね。
(上森)イベントとして、9月にワールドフェスタをビラインフィニティで開催します。また、先日は、観光協会の方がきて、講演会を開催し、その後懇親会でバーベキューをしました。
(栗原)楽しそうですね。
(渋谷)楽しかったですね。料理もおいしかったです。歌もあって、日系ブラジル人の歌手が、ギターで日本語とポルトガル語で歌を奏でていただきました。
(栗原)食事をしたりおしゃべりをしたりして、一緒に過ごすことは大切ですね。
(上森)はい、お酒とバーベキューは大事です。
(渋谷)ブラジルレストランは、週に1回、ライブを聴きながら食事ができます。来週はボサノバです。以前は演歌もありましたね。
(上森)ともに楽しむところから、ともに生まれてくるものがあると感じています。
・留学生の就職支援
第1回「現場から見える課題」
第2回 企業の視点、大学の視点 対談①
第3回 「仕事ができる人」とは? 対談②
第4回 対談③在留資格の注意点
第5回 対談④キャリア相談とは
第6回 対談⑤留学生の情報源
第7回 対談⑥重視する点は知識ではなく、培ってきたこと
第8回 対談⑦地域連携の中での留学生支援
第9回 対談⑧インクルージョンについて考える
第10回 対談⑨中小企業のマッチング
第11回 対談⑩製造業の人手不足
第12回 対談⑪外国人の定住
第13回 対談⑫社員視点での職場環境づくり
第14回 対談⑬中小企業と学生は、どうすれば知り合えるのか
向学新聞2024年7月号目次>留学生の就職支援 第12回 対談⑪外国人の定住
a:825 t:4 y:2