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向学新聞2023年4月号目次>留学生の就職支援 第7回 対談⑥ 重視する点は知識ではなく、培ってきたこと
<向学新聞2023年4月号記事より>
留学生の就職支援
第7回 対談⑥ 重視する点は知識ではなく、培ってきたこと
栗原由加 氏
神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部 教授
キャリア教育センター副所長
清水勇輝 氏
豊開発株式会社
代表取締役
これから外国人留学生を採用していきたいと考える企業は、なぜ留学生を採用しようとしていて、どのような点を重要視しているのか。今回は、栗原氏が聞き手となり、留学生採用を検討している豊開発株式会社代表取締役の清水氏にお話を伺った。
留学生採用の背景
栗原)清水社長は留学生採用について関心をお持ちですが、どのような点で留学生採用を検討されていますか。
清水)当社は、業種としては建設業で、建物建設の基礎工事や山留工事などの施工管理に特化した事業を行っています。施工管理という仕事は、請け負った工事の管理に特化するもので、重機に乗るなどの作業は行いません。ですから、コミュニケーションをしっかり取れる人なら、性別や国籍に関わらず働くことができる仕事です。採用の間口を広げたい、という意味で留学生採用を考えています。また、施工管理職以外の、内勤の企画や採用の仕事でも、一緒に仕事をしてくれる留学生を採用してみたいと考えています。
栗原)最近は、特定技能の在留資格などで、建設現場にベトナム人の作業員も多く入っていると聞きます。例えば同じベトナム出身の方を自社の施工管理職で採用したい、など、特定の語学力や出身地にニーズはありますか。
清水)確かに、現場の協力会社の作業員にベトナムの方がいることが多いですが、必ずいるというわけではないので、個人的には特にどの国が良いというのはありません。
栗原)仕事についての希望を留学生に聞くと、自分がその会社でどのように活かされるのかを気にしていて、自分の母語が活かせると感じると、それが応募のモチベーションにつながるケースが良くあります。
清水)なるほど。ただ、当社の施工管理では、すべての現場に外国人がいるわけではないので、語学力を活かせる仕事限定となると当社の仕事には合わないかもしれません。
栗原)施工管理の仕事は、文系出身でもできますか。
清水)当社の施工管理職は、最近の新卒採用は文系出身者も多いです。事務・企画系の職種では文学部出身者もいます。当社では建設業界だからといって、建築系や工学部の出身者に絞るということはしていません。
応募の時点で持っている知識やスキルよりも、しっかりコミュニケーションが取れる人かどうかを重視しています。建設現場は、施主、元請であるゼネコン、協力会社の職人さん、その他の仕事の人等、たくさんの人が携わっています。そうした年齢や性別、国籍の違う人たちと、工程調整をしたり、イレギュラーなことに対応したりするため、しっかりとコミュニケーションをとれるかがとても大切です。
コミュニケーション能力とは
栗原)仕事ではコミュニケーション能力が大切、とよく言われます。清水社長は、具体的にどのような人をコミュニケーション能力があると感じますか。
清水)コミュニケーションが上手だろうなと思うのは、学校以外で、異年齢の人がいるコミュニティでリーダー的な立場をやっていた人ですね。建設現場は、先ほど申し上げたように、不特定多数の人が集まり、平均すると年齢は高めです。そのような環境に、当社の若手は施工管理職として、一番年下で現場に入り、様々な人の間に入って調整する立場です。ですから、学生時代に様々な年齢の方と一緒に何かをしたことがある経験はとても重視しています。60代、70代の職人さんに対しても、万が一危険な作業があればストップをかけないといけませんから、「話したことがない人だから、年上だから」、と尻込みしていてはできません。対人関係で自分から踏み込んでいって関係を築ける人がいいですね。
栗原)なるほど。留学生の中には、日本語を流暢に話せることや友達が多いことが、コミュニケーション能力だと思い、一生懸命そこをアピールする学生もいますが、企業の方が見ている点とは違いますね。
一方で、面接の限られた時間の中で、学生のコミュニケーション能力を判断するのはなかなか難しいだろうと感じます。
清水)そうですね。企業の「面接」というスタンスがあまり良くないと思っていて、当社は面接というよりは雑談のようにしています。面接する人、される人、という位置づけで話すと、お互いの理解が深まらないのではと感じます。学生が頑張ってアピールする場、というよりは、フラットな雰囲気でお互いを理解する場にできたらと考えています。
学生の趣味や頑張ってきたことなどを聞きながら、こちらからは会社の方針や理念を伝えて、カルチャーフィットするかが重要だと感じています。当社はメンバーシップ型の採用ですから、相性や会社の想いに共感してくれるかが大事ですね。たとえ選考の時点でスキルが足りなくても、入社後の本人の努力や会社のフォローで、後からでもスキルや知識は身に付けることができますから。これは日本人でも外国人でも同じですね。
企業が見ているポイント
清水)私は、留学生たちが、不安を感じながらも、「えいっ!」と、母国を離れて日本に留学にきたそのプロセスが素敵だなと思っています。その経験の中でどのようなことを身に付けてきたかを聞かせてほしいです。留学生が何カ国語も話せるのはすごいとは思いますが、それが一番の武器ではないと思います。「母語を活かせる仕事」というだけでは、わざわざ日本に留学に来て経験から学んだものが活かせないのではと思います。
当社もですが、中小企業は日本人の同じような属性の人が集まりがちです。だからこそ、異なる経験を持つ留学生には、日本の会社組織や人間関係の中で、もっとこうしたらいいのではという提案や、そもそもなぜこのやり方なのか、といった問題提起をしてほしいという期待も持っています。
栗原) 「語学力を活かすのではなく、経験を活かす」ということですね。
清水)そうですね。私は法学部出身で、前職では営業職でした。法律の知識を活かすというよりも、培ってきた論理的に考えることができる点などをみて採用されていたと思います。知識を使いこなすというより、培ってきたことが大切だと思います。
栗原)留学生採用を考える上で、会社としてハードルを感じる点はありますか。
清水)これまでに会社としての外国人採用の知識や経験がないので、実際に留学生の採用が決まったら、在留資格の手続きでは戸惑うかもしれません。しかしそこは会社として勉強して成長するチャンスでもあると考えています。
栗原)外部の力を借りられる仕組みも必要だと感じますが、清水社長が期待するサポートや環境は、どのようなものですか。
清水)在留資格の面では、行政書士のパートナーがいると安心ですね。ほかには、業界の中で、外国人の集まりや、雇用している企業のコミュニティがあると良いと思います。仕事の事で困ったことがあれば相談しやすいですね。また、大学コンソーシアムのような、留学生の就職支援をしているところが、就職後数年間はフォローをしてくれるとありがたいですね。留学生を採用して、あとはよろしく、では当社のように経験がない企業は心細いと感じます。
栗原)そうですね。学校側も通常は学生を就職させたら手を離してしまうのですが、留学生が入社した後も学校側がサポートする仕組みがあると、企業も学生本人も安心です。またそれが、外国人社員の定着率の向上や前向きな採用につながると思います。
清水)留学生採用に向けては、建設業界の現場=厳しいというイメージを持たれることが多く、資料だけでは当社のこと、施工管理のことに関心を持たれにくいので、もっと多くの留学生と直接お会いして、当社の事を知ってもらう努力を当社がする必要があります。外国人の方と一緒に働いたらきっと楽しいだろうなと思いますし、なにか新しいことが生まれるかもと期待を持っています。
栗原)そうですね。留学生に限ったことではありませんが、学生は企業の代表者や採用担当の方と良いコミュニケーションが取れた時に、その会社への入社意欲を高めることが多いです。実際に会って話す機会を十分作ることが、大切ですね。
・留学生の就職支援
第1回「現場から見える課題」
第2回 企業の視点、大学の視点 対談①
第3回 「仕事ができる人」とは? 対談②
第4回 対談③在留資格の注意点
第5回 対談④キャリア相談とは
第6回 対談⑤留学生の情報源
第7回 対談⑥重視する点は知識ではなく、培ってきたこと
第8回 対談⑦地域連携の中での留学生支援
第9回 対談⑧インクルージョンについて考える
第10回 対談⑨中小企業のマッチング
第11回 対談⑩製造業の人手不足
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